laid back

ほかから移ってきました。日々、思うところ感じるところを気ままにつらつらと。

Vol.10 「小人」のささやき。

 知人のボーイフレンドが体の変調を訴えだしたと聞いたのは確か1ヶ
月ほど前のことだ。なにやら、耳の調子がおかしいらしい。音がダブって聞こえるのだという。
 知人いわく、「彼の耳に小人が住み始めたの」
 彼女が彼の名前を呼ぶ。
 「○○クン、○○クン」
 振り向いた彼が、顔をこわばらせてこうつぶやいた。
 「『○○クン、○○クン』って、小さくこだまするんだよ。あぁ、どうしてなんだ。自分の声はそういうふうには聞こえないのに、他人の声だとそう聞こえる時があるんだ。音が遠くに聞こえるような感覚もあるし。おかしいよな、これって」
 努めて冷静さを装い、彼女は言った。
 「疲れているのよ、○○クン。小人さんが遊びに来たんだわ、きっと。でもさ、○○クン、その話、誰にも言わないほうがいいと思うよ。だって、気味悪がられるでしょう?」
 そう○○クンに助言した彼女、しっかりと我々の耳にその話を届けてくれた。それも結構、面白おかしく。確かに気味の悪い話だけど、多分彼は彼で悩んでいたと思うと笑えない。陰でしっかりと笑ってしまったけど(ゴメン!)。
 思うに、○○クンの耳に小人が現れたのはストレスが原因なのではないか。
 昨年、思うところあって民間会社を辞めてお堅い職業に転職した彼。全く違う世界に飛び込み、かなり年齢差がある若い同期の仲間たちと肩を並べ、一日でも早く仕事を覚えようと努めた結果、「突発性難聴」とも考えられる症状が出たのではないか。
 あれから、小人の話は聞いていない。○○クンは、どうにか新職場になじみ始めたのだろうか。
 新年度、新学期が始まってそろそろ落ち着くころ。春の穏やかさと相まって心の緩みが出がちな時期になった。ピンと張っていた緊張の糸が切れ、突然耳に小人がやって来たら、さぁ大変だ。