laid back

ほかから移ってきました。日々、思うところ感じるところを気ままにつらつらと。

美顔。

 
もうずいぶん前のことだが、幼心に強烈な印象が残ったことを覚えている。

 ある晩、風呂から上がって鏡台の前に座っていた姉貴が振り向きざまに見せた顔は、両目

と口の輪郭だけを残した白顔だった。しばらくたって、キュウリの輪切りを顔中に貼り付け

た姉貴の姿があったと思ったら、なにやら透明な丸いボウルに顔をうずめながら苦しそうに

もがいている晩もあった。小学生の目にはかなり奇妙な光景だった。

 今も昔も、美顔は女性の永遠のテーマだ。絶対がない世界だからこそ、美しさを求めて世

の女性たちはさまざまな美顔対策に励むのだろう。もっとも最近では、男性諸君もその世界
に入り込んでいるようだが。年中あまりきれいじゃない日本の海水に浸っているわが身には
無縁の世界です。

 そう思っていた。半年ほど前に、あのテレビ番組を見るまでは。

 画面には、青森・津軽の田んぼの中で、農家のお母さんたちを対象に小さなエステを営ん
でいる30代、いや40代だったか、とにかく美肌美人の地元のご婦人が紹介されていた。
若いころからほとんど化粧をしたことがないこの婦人は、誰からも美人と形容される美顔の
持ち主。その秘訣は、小さいころから毎朝欠かしたことがないという野菜と果物の生ミック
スジュース1杯ととぎ汁での洗顔。彼女が惚れ惚れするほど美しかったからだろう。

「これはいいね」と、ひとりごちた。

 そのころ、娘の顔ににきびがポツリポツリと目立ち始めていた。市販の薬用クリームや洗

顔剤を試していたが、どうも効果がないようだった。そこに、米をといだ時に出るとぎ汁の
登場である。父親を不審の目で見るようになってきた健全な娘をどうにかなだめすかし、朝
か晩1日1回のとぎ汁洗顔を試させ始めた。ナチュラルな効用は、劇薬と違って劇的な変化
は当然起こりえない。気味悪がって嫌がる娘を何度諭したことか。


「美肌はナチュラルなのが一番」。幸いにも、76歳になる〝健康オタク〟の母が以前から
とぎ汁洗顔を実践し、つるつるの肌を保っていることを知った娘は徐々にその効用を信用す
るようになり、忘れなければ言われずとも自ら白濁の水で顔を洗うようになった。肝心のに
きびはかなり落ち着いたように見える。

 まんざらうそでもないんです。栄養分に富むヌカが正体のとぎ汁洗顔は昔からの習わし。

最近では、その効用に目をつけた美容品が市場に多く出回っている。単に米だけでなく、日
本酒を原料にした商品も出始めている。ホットなんです、今、米は。

 だたし、使用上の注意がある。ー常にフレッシュにー。気密性が高かったマンション住ま
いで容器に入れたままにしておいたとぎ汁はすぐに腐った。そのニオイの臭いことといった
ら......。強烈です。娘いわく「ドブで顔洗いたくないわ」。

 1リットルほどのとぎ汁をフレッシュな状態に保つため、気付けばごしごしとぎ汁で顔を

洗っている自分がいる。おかげでつるつる? 使用上の年齢制限があるかもしれない。