laid back

ほかから移ってきました。日々、思うところ感じるところを気ままにつらつらと。

映画私評 NO.2

 
  『ビッグ・ウェンズデー』


 波乗りを始めた18のころ、アルバイト先のカフェバーで連夜ビデオ上映していた。ひよっこサーファーだった自分にとって、当時、かなり影響を受けた青春記念碑的作品でもある。20数年ぶりに、DVDで観た。
 とてもアメリカ的で、もちろんサーファー的である偏ったジャンルの映画なのだが、柱となるメッセージは今見ても色あせていないと感じた。おそらく、映画の流れと同じような時間軸を自分がこの20数年過ごし、人並みの人生経験を積んできたからなのだと思う。憧憬と尊敬、かなりの嫉妬心を抱きつつ飽きることなく熱心に観ていた10代。40代になり、主人公の気持ちに同化しながら観ている自分がいた。
 サーフィンのメッカ南カリフォルニア出身のジョン・ミリアスを監督に、1978年に制作されたこの映画は、60年代のカリフォルニアが舞台。サーフィンで結ばれた男たち3人の友情を軸にストーリーが展開される。将来のことより今この瞬間を波乗りにかける若者たちに、時間は容赦なく訪れ、自分たちの生きる道を模索していく。ベトナム戦争やヒッピームーブメントなど60年代後半の社会的現象を織り交ぜながら、それぞれに年を重ねていく3人が描かれる。水曜日にやってくるという伝説の大波を何年も待ち続けながら。かくして、一世を風靡した主人公のマット(ジャン・マイケル・ヴィンセント)は、その大波が来た時には若いサーファーたちから既に忘れられた存在になっていたが、かつての仲間たちと3人で静かに熱くその大波に挑み、大勢のギャラリーが見守る中、彼らは正確かつ大胆で確かなラインを波の上にしっかりと描く........。
 波乗りに取りつかれた若者(男)なら、たとえ自分の実力がプロレベルでなくとも、大なり小なり映画に登場する3人と同じような悩みを抱く。親のすねをかじっていた自分が社会人となり、仕事を持ち、結婚して子どもを育て、家庭を支えていく。年を重ねることは人生の重みが増すことだ。それぞれの事情から、仲間である多くのサーファーたちが海から遠ざかっていき、サーファーとしてのアイデンティティーが徐々に揺らいでいく中で、それでも波を追い求めていくサーファーはそれほど多くはない。夫であり父であり、サラリーマンや事業者であっても、サーファーであることを忘れなかった映画の中の3人のサーファーたち。そこに、ロマンや郷愁を感じ、共感した人たちが少なくなかったからこそ、この映画は80年代、サーファーたちのみならず映画ファンをも魅了したのだと思う。
 エンドロールに流れるラスト曲の歌詞が印象深い。


♪時は移ろい人は変わってゆくけれど、心だけは自由でいたい 風やや波のように..........♪