laid back

ほかから移ってきました。日々、思うところ感じるところを気ままにつらつらと。

映画私評 NO.3


  『告白』

 誤解を恐れずに書けば、かなり面白い。
 楽しいとか、気持ちが晴れたとか、感動、共感した、などという感情は一切湧かない。かといって、反感や怒り、悲しみ、失望感などのネガティブな感想を持ったわけでもない。単純に、娯楽としての映画として、楽しめた。
 昨年の本屋大賞に選ばれた、湊かなえのベストセラーが原作。原作を読むことなく、批評や解説の類に全く目を通さず映画館に入り、ほとんど先入観のない状態で鑑賞した。コンパクトでスピーディーなストーリー構成と展開が、見る者を飽きさせない。
 自分の小さな娘を、担任するクラスの教え子に殺された中学女教師森口を主人公(松たか子)に、告白調で当事者たちが語るそれぞれの物語を織り交ぜ、本筋の核をクロスオーバーさせる。全体を貫くシリアスなトーンに、所々オーバーすぎない乾いた笑いを組み込む巧みな構成で最後まで引っ張っていく。
 我が子を殺された女教師の復讐劇という単純な図式を、破綻した家庭環境やデスコミニケーション、思春期特有の悩み、マージナルな世界から大人社会を見下す反抗期の視線、携帯やネットに影響される心理状態など現代社会を象徴するような事象、現象がクロスワードのように連結、融合していく。
 「こんなことあるわけないよ」ではなく、限りなく「こんなことあるかもしれない」と思わせるリアルさこそが、作品の底辺を力強く支えている。
 作品に込められたのだろう、作り手たちの思いを探るのは容易ではない。もしかしたら、それすらないような気にさせる映画でもある。
 原作のみならず、話題になる理由がそうした点にある気がする。
 中島哲也監督。