laid back

ほかから移ってきました。日々、思うところ感じるところを気ままにつらつらと。

「サンドイッチマンション」

かれこれ15年以上ぐらい前のことだろうか。知り合いになった在仙のアイルランド人がある日、こう打ち明けてきた。
 「私、最近、マンション買いました」
 仙台に来て生涯の伴侶と出会い、子どもを授かった彼。第二の故郷に仙台を選び、人生の中でもおそらくは一番高価で価値ある買い物をしたというのに、さほどうれしそうではない。
 「かなり安かった。これが一番の理由。でも、普通の家と違って変わってるんだよ」
 それからしばらくして招かれたマンションの一室で、何と言っていいものやら戸惑った自分と妻の姿が記憶に残る。南、北両サイドを同じくらいの高層マンションにかなり至近距離で挟まれ、確か10階前後くらいの彼の家の部屋には、昼だというのにほとんど日が差していなかった。蛍光灯の光に照らされ、こんな住居環境ってあるんだ、と妙に感心したことも覚えている。
 もともと日照が少ないお国柄育ちなのか、皮肉なジョークが好きな彼の性格からなのか、申し訳なさそうな我々の気持ちを悟ってか、彼は「これもしょうがないね。街中でこれだけ安いマンションだから、太陽はバイバイよ」と笑いながら話していた。日本人の奥さんは結構、参ったという表情だったような気がしたが。
 その後、再び彼の家に招かれることはなく、そのまま疎遠になってしまった。彼ら家族がまだあのマンションに住んでいるかさえ知らない。ただ、そのマンションはいまなお、仙台市内中心部の一等地にある。
 彼自らが名付けた〝サンドイッチマンション〟は当時、結構珍しかった。でも今、五橋にある会社の屋上から周囲を見渡しただけでもその類のマンションがかなりの数あることに気づく。これも、都会の風景なのだろう。
 それにしても、と思うわけだが、当事者が抱えるさまざまな事情と価値観などでそうした環境に我慢せざるをえない人たちや、逆にそれを楽しみ満足している人たちもいるのは確かだ。
 仕事の合間、屋上で紫煙をくゆらせながらサンドイッチマンションに思いをはせている。