laid back

ほかから移ってきました。日々、思うところ感じるところを気ままにつらつらと。

ぽっかりと開いた穴。

 難病を患い59歳でこの世を去った父親とは、ついぞ打ち解けることができなかった。
 社会人になって4年目の27歳。大人の男と呼ぶには、自分はまだまだ若く青かった。
 振り返ると、小学6年生あたりで親に不信感を抱くようになって以来、物事を本音で話す機会はなかった。いや、互いにそれを避けていたのだと思う。ひとつ屋根の下で暮らす親子という関係が、必ずしも近いとは限らない。親に対して早くに閉ざした心が、成長とともに完全に開くことはなかった。
 『The Notebook』(きみに読む物語)や『A Message in a Bottle』の代表作がある、アメリカのベストセラー作家ニコラス・スパークスの『The Last Song』を読んだ。6月に映画が公開され、あまり話題にもならなかったが、原作の世界に引き込まれた。
 反抗期のティーンエージャーの娘ロニーが弟と2人、妻と別れ3年間別々に暮らしていた父親の家で、夏休みを過ごす。会うことも言葉を交わすことも拒絶していたロニーが、見知らぬ父の生まれ故郷で人との出会いやちょっとした事件などを経験し、徐々に心を開いていく。父が余命わずかの末期がんを患っていたことが発覚し、ストーリーは急展開して切なく感動的なラストへと向かう...........。
 全く遠い世界の架空の出来事ながら、どこか心に響くものがあった。それは何だろうと考えながら読んでいくうちに、自分と父親の関係を思っていた。あれほど毛嫌いしていたロニーが、父親と正面から向き合うようになったのは、ほんの短いやり取りから始まった会話の積み重ねだった。無償の愛が紡ぐ父親の言葉は、優しく静かで、思いやりにあふれていた。硬く冷たい氷が解けるように、ロニーは父親と心を通わすようになっていく。「物語だから」とは当然なのだが、それで締めくくりたくないと思わせる余韻が心に残った。
 互いを理解し合い和解をとげた父と娘の物語に、亡くなってなお互いの間にぽっかりと開いた穴のような空白を感じ続けている自分の心持ちの狭さを思う。