laid back

ほかから移ってきました。日々、思うところ感じるところを気ままにつらつらと。

対抗心。

 通勤途中の朝、赤信号待ちで一緒になった自転車の彼は、一瞬こちらに目を向けすぐさま目指す方向を見据えた。

 背広姿ではないが、サラリーマンだと一目で分かる。両手を自転車専用の手袋で覆い、汚れを防ぐためにパンツのすそをバンドで固定。背中には、黒っぽいスポーツリュックをしっかり背負っている。

 「やるな、このオヤジ」

 自分とさほど年も違わないだろう見知らぬ自転車通勤のサラリーマンに、妙な対抗心を抱いてしまった。

 信号が青に変わった。このオヤジ、速い。慣れた脚さばきでペダルをこぎ、一気に速度を上げていく。

 よせばいいのに、やってしまった。

 「負けてたまるか!」 

 短パンにTシャツ姿。スポーツシューズで足元を軽くし、スポーツキャップをかぶって同じようにリュックを背負った自分がここで引くわけにはいかない。何でかなぁ?その時はそう思ってしまった。

 それからはもう必死だった。

 会社のある仙台市中心部まで8㌔前後。追いつ追われつのレースが始まった。

 お互い、対抗心なさげに、歩道や車道の離れた距離から知らんぷりして抜き去る。抜き去ったと思ったら、いつの間にか抜き返されている。追いつ追われつの攻防。どちらも言葉を交わさなかったのはもちろん、目を合わせさえしない。第三者には、〝出勤自転車レース〟が繰り広げられているなんて思いも付かない。意識し合っているのはただ2人。われわれだけだ。

 結局、途中で互いの出勤ルートが違ったため、レースの結果はうやむやになった。

 普段より10分〜15分も早く会社に到着。サドルから降りたら、両足がプルプルと震えていた。

 「全くバカなことをしたもんだ」

 バカげた対抗心。先日行ったスポーツジムにあるサウナ以来だ。