laid back

ほかから移ってきました。日々、思うところ感じるところを気ままにつらつらと。

転機。

 長いこと波乗りを続けていると、幾度か大きな転機を迎える。

 その基本パターンは、年を重ねるごとに、恋愛、就職、結婚、出産、仕事、体力、価値観の転換......。

 恋人がいないうちに波乗りを始めた青年Aは、念願叶って恋人を見つけたが、デートの時間と波乗りの時間の折り合いが付けられず海から遠ざかり、恋人との時間調整を上手く乗り切った青年Bは結婚後、生活を妻に仕切られ波乗りを断念。結婚生活と波乗りを上手く両立できていた青年Cは仕事に追われっぱなしでたまの休暇には海にいく気力もなくなってしまった。それらすべてを上手くこなしてみせた青年Dは、子どもの誕生とともに波乗りに行くことを妻からとやかく言われ続け、その愚痴に耐え切れずリタイヤ。それらの障害すべてを何とか越えた青年Eは、サラリーマンの常で接待ゴルフのほうに楽しさを覚え、サーフボードの代わりにクラブを握るようになってしまった........。
 
 そんな、「かつてサーファーだった」人たちは世の中にごまんといる。

 陸の荒波を何とかかいくぐり乗り越えながら、無駄に年を重ねつつ波乗りを続けている。最近はサーファーの社会的認知度も比較的高くなってきたからか、若い子たちに「格好いいですね」などと歯が浮くようなリアクションを頂くこともある。基本的には、波乗りバカ、阿呆だからこそ、ここまで続けてこれたんです(笑)。
 
 ただ、いつの時代にも自分の力だけではどうしようもできない限界のある問題を、波乗りというスポーツは根本的に抱えている。それを解決できたらこれ以上ない幸せなのだが、99パーセント、それは不可能と言ってもいいだろう。

 波という自然があってこその波乗りなので、人為的に波のスケジュールを変えることはできない。波がある時、その場にいることができるか?これが、波乗りをする上での究極の課題なんです。だからこそ、先に示したような問題が起きるんですね。一人身ならどうにかできる事でも、家庭を持ち仕事上の責任が大きくなればなるほど、サーファーとして解決すべき事柄はどんどん複雑になってくるんです。

 波があれば仕事は休み。恋人も妻も子どもも「行ってらっしゃい!」と手を振りながら送ってくれる。................。現実は、当然のことながらそんなに甘いもんじゃないんですね。だから、サーファーは悩むのです。一応、自分も人並みに悩むこともありましたが、かろうじて現在まで続けることに成功しております。

 こうしたサーファーが抱える大きな難題を信じられないような人生、会社哲学で打ち破ってしまった世界的企業があるんです。

 『let my people go surfing』(A Penguin Book)


 3年前、日本版『社員をサーフィンに行かせよう』のタイトルで出版された本には、度肝を抜かれた。ある程度の噂は聞いてはいたが、ここまで徹底していればさすがです、としか言いようがない。いまや若者を中心に圧倒的人気を誇るアウトドアウェアのブランド、パタゴニアの創業者イヴォン・シュイナードが書いた同社の経営理論だ。分厚い内容を一言で言えば、「波があるならまずサーフィンをしろ。その充実した気分を仕事、家庭にも振り分けろ。好きなことを我慢しながら仕事をしてもはかどるわけがない」。

 よくぞ、言ってくれました。シュイナードさんに拍手!です。

 1993年、アウトドアウエア製造企業としては初めて、消費者から回収、リサイクルしたペットボトルからの再生フリースを採用した製品を作り始めたパタゴニアは、世界的な有名ブランド企業に成長し、かなり以前から売上金の一部を環境保護活動に寄付してきたことはあまりにも有名な話だ。そんな若者あこがれの企業の社是的姿勢が、こんな夢のあるものなのかと、本当に夢を見ている思いだ。何事も、思いがあれば、できないことはないという好例中の好例でしょう。

 とはいえ、いまさらパタゴニアに転職するわけにはいかないし、できるはずもない。

 なので、世界規模でサーファーにも環境にも優しい企業が実在するんだという〝夢物語〟に大きな勇気をいただき、これからも間違いなく訪れるだろう数々のスケールの小さい転機を迎え、ひとつひとつ乗り越えていこうと思っています。