laid back

ほかから移ってきました。日々、思うところ感じるところを気ままにつらつらと。

No.230 花束の思い出。

 昨春まで住んでいた秋田市のマンションの自宅には、毎週土曜日、小さな花束が届けられていた。

 リッチ感ある話に聞こえるが、いえいえ、ひと束1000円也の宅配サービス。消費税込みの値段です。「500円でもいいんですよぉ、ちゃんとお届けしますから」なんて事を、1人店主の彼は言っていた。

 彼とは、偶然に知り合った。秋田からお笑い芸人を目指して大阪に出たが、訳あって地元に戻り、知り合った4年半ほど前は、軽自動車を使っての移動花屋さんを軌道に乗せようと頑張っていたころだった。その縁から、自宅にも宅配してもらうことになった。

 彼が届けてくれる花束は、いつも季節感漂うボリュームある一品だった。一般的な店なら数千円ぐらいで当たり前に売られているような品を、ガソリン代までかけて毎週毎週届けてくれた。玄関の靴箱の上には、いつも新鮮な花が飾られるようになり、小さな生活空間に潤いを与えてくれた。

 採算を度外視するような心のこもった花束の宅配は、一定数の顧客には恵まれたが、やはりこの不景気、長く続けるには無理があった。昨年末をもって廃業したという。

 悲しい話ではある。でも、今年に入り、彼は異業種の仕事に就くことができ、新たな道を進み始めた。

 久々に電話で話した彼は言っていた。「花束を届けてくれというお客さんがまだいくらかいるので、休みを利用して花を届ける仕事は細々と続けていこうかと思っているんです」



 「花って素敵じゃないですか。空間を見事に演出するし、心の潤いにもなるし」

 初めて会った時、確かそんな事を彼は話していた気がする。

 いつも謙虚な彼は、素敵な花とともに素朴で心に響くサービスを提供してくれた。秋田を離れ、恋しい事のひとつ。

 彼の近況は、ブログ「LB-52 『華善』て云う職業について」にて、どうぞ。


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