laid back

ほかから移ってきました。日々、思うところ感じるところを気ままにつらつらと。

味日記/苦く懐かしい思い出。

 子どものころ、いつも腹をすかしていた。
 茶箪笥の中に、母がしまっておくお茶菓子が途切れない日はなかった。そのくらい、腹が減っていた。
 ある日、インスタントコーヒーだか何かの水煮だかの小さな瓶に入ったキャンディーを見つけた。珍しいことに、瓶にたくさん入っていた。
 喜び慌てふためきながらふたを開け、銀紙の包みにくるまれたチョコレート味のキャンディーをふたつみっつと一気に口の中に放り込んだ。
 「△□?○×◇........」。
 あまりの不味さに、すべて吐き出してしまった。「何だこれ!」。そう叫び声を上げたかどうか今では記憶があやしいが、とにかく、不味かった。
 瓶に鼻をあて、ニオイをかいだ。大嫌いなラッキョウのニオイがぷんぷん鼻を突いた。
 夏の夕刻だった。西日ががんがん当たる台所にちょこんと置かれていた瓶の中のキャンディーは、その前に入っていただろうラッキョウのニオイを、季節の暖かさとあいまって十二分に吸収してしまっていた。あろうことか、ラッキョウである。ラッキョウとチョコの、あってはならない組み合わせが、幼い男子の口の中で残酷なハーモニーを奏でててしまった。
 「だって、ラッキョウが転がっちゃうんだも〜ん」。
 アイドル歌手の松本伊代が、テーブルのうえで転がる小さなラッキョウにゲラゲラ笑いながらボンカレーを宣伝するよりずっと以前のことだった。伊代ちゃんが奇妙なCMに登場しようが、あの〝事件〟以来しばらく、ラッキョウを見るのも想像するのもイヤでたまらなかった。

 っと、通常なら、「それがラッキョウ嫌いの理由」になるところだが、30年以上もたった今、ラッキョウは好物の部類に入る食べ物へと大昇格を果たした。
 一番の大好物カレーが、ラッキョウの魅力と奥深さを教えてくれたのだ。カレーとラッキョウ。この永遠のコンビがなかったら、今でも吐き気に悩まされていたかもしれない。
 ちなみに、幼き日の我が家では、カレーとラッキョウの組み合わせはなかった。後日分かったことだが、家ではめったに見かけなかったラッキョウが、あの時どうしてチョコレートの前に瓶に入っていたかというと、「体にいいって聞いたから酢漬けにしてみた」と母。「でも、不味いのね、ラッキョウは」と悟った母は、漬けたはよかったが、ほとんど食べもせず早々と捨ててしまい、チョコレートに中身を替えたという。